AI時代にこそ必要なスキル②「コンテキスト編集力」
はじめに──「課題を疑う」から次の一手へ
前回のコラムでは、ChatGPT に指示を出す前に**「本当にやるべき課題か?」を疑い、
①目的を見直す ②視点を変える ③課題そのものを疑う――という課題認識力**を紹介しました。
今回はその続き。問いがクリアになった後、AI から返ってきた答えをどう仕立て直すかがテーマです。
生成 AI の出力には、いつもこうした“混ざり物”が含まれます。
種類 | 中身 | 典型的な反応 |
当たり | 目的に合った具体アイデア | 「これ使える!」 |
ズレ | 誤読・勘違い・古い情報 | 「そこじゃない…」 |
空白 | 触れられていない視点 | 「ここも欲しい」 |
コンテキスト編集力は、これらを抜き出し→並べ替え→再投入することで
“当たり” を引き立て、“ズレ” を直し、“空白” を埋めていくスキルです。
STEP ① 前提(コンテキスト)を具体的に渡す
なぜ重要?
AI は目的・範囲・粒度が曖昧だと「平均的な常識」で空白を埋めてしまう。
まず 目的/範囲/粒度/形式 の4点を 数字と言葉 で渡し、文脈の座標を固定する。
項目 | 具体的に書くこと | 例 |
目的 | 何をどこまで達成したいのか、数字と期限をセットで書く | 〈例〉「来期までにエントリー数を+30%」 |
範囲 | 誰・どこ・いつまでを明確にする(対象部門/期間/上限コストなど) | 〈例〉「国内・新卒エンジニア採用のみ、4〜9月」 |
粒度 | どのくらい細かく/ざっくり出力してほしいかを指定する | 〈例〉「費用は“万円単位・整数”で、施策説明は各80字以内」 |
形式 | 返してほしい見た目を一言で指定する(表・スライド体・要約など) | 〈例〉「施策/コスト/効果の3列表」 |
STEP ② ズレを検知し、即・修正する
なぜ重要?
「ズレたまま深掘り」は時間泥棒。対話の途中で理解チェックを挟み、誤読を最短距離で潰す。
3つの理解チェック
タイミング | 質問例 | ゴール |
---|---|---|
途中確認 | 「いまの説明で不足は?」 | 抜け漏れを発見 |
要約確認 | 「一文でまとめると?」 | 誤読を可視化 |
Yes/No | 「〜という理解でOK?」 | 認識を一致 |
誤読を見つけたら 追加の前提 を投下して再質問。
ここまでで“ズレ”は最小化できました。次に確認したいのは 「まだ足りない点」 と
「特に強調すべきポイントはどこか」 です。これが Step ③ につながります。
STEP ③ 足りない・強調ポイントを際立たせる
3 段階の編集フロー
- ハイライト抽出 → 強調ポイントを浮かび上がらせる
- プロンプト例:「提案の中で特にインパクトが大きい3案を50字で要約して」
- 空白チェック → 足りない視点を埋める
- プロンプト例:「採用候補者の心理面から見て不足している懸念点は?」
- リライト&再投入 → 文脈を更新し、深掘り
- 抽出+追加した文章を冒頭に貼り付け<br>
「上記を前提に、費用対効果が高い順に並べ替えて」
- 抽出+追加した文章を冒頭に貼り付け<br>
“編集の5ポイント” チェックシート
観点 | 見る所 | 質問フレーズ | 次アクション |
---|---|---|---|
ゴール適合 | KPI と直結? | 「KPI達成に寄与?」 | ズレ行を削除 |
具体度 | 抽象語が多い? | 「具体例で説明?」 | 具体化指示 |
重複 | アイデア被り? | 「同義は?」 | 統合 |
トーン | 読者に合う? | 「新人向け口調で?」 | 口調変換 |
空白 | 視点抜け? | 「他の角度は?」 | 追加質問 |
ポイント
- 当たり=ハイライトで強調
- ズレ=修正 or 削除
- 空白=追加質問で補完
2〜3ループで “粗い原案” が “使える最終案” に化けるはずです。
まとめ――“課題を確認 → 文脈を編集” を毎日回そう
- 前提を具体的に渡す:目的/範囲/粒度/形式
- ズレを即修正:理解チェックで誤読を潰す
- 足りない・強調ポイントを編集で際立てる:抜き出し→空白補完→再投入
編集で磨き込むほど、AI はあなたの文脈を学習し、共同制作者へ進化します。
次回は「深掘りするヒアリング力」。
良い質問が AI の潜在知をどこまで引き出すか、の話。
まずは今日、返ってきた回答を 「強調」「修正」「追加」 の 3 色に分け、
“コンテキスト編集ループ” を体験してみてください。成果が静かに、でも確実に変わり始めるはずです。